まめ書架

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【小説】カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』

村上春樹高橋源一郎今敏松尾スズキジョン・アーヴィング...

わたしの好きな作家たちは、みんな、この人につながっていた。この人がいなかったら、いったいどれだけの小説家が世にあらわれなかったのだろう。

 

カート・ヴォネガット・ジュニアタイタンの妖女

 

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

宇宙に存在する「時間当曲率漏斗(じかんとうきょくりつろうと)」に飛び込み、全知全能の神のごとき存在となった男・ラムファード。彼は地球に統一宗教を打ち立てるため、ひとりの人間の運命を徹底的に利用しつくすことにした。

地球一番の大富豪マカライ・コンスタントは、すべての富と記憶を失い、全ての地球人からの非難を一身に浴び、太陽系の星々をさすらうことになる。

最初は火星、つぎに水星、いったん地球に戻ってきて、そして、タイタンへ。 

 

あらすじから、キテレツ感が伝わればよいのですが。

ヴォネガットの代表作であると同時に、最もキテレツな内容です。とくに冒頭は、摩訶不思議な用語達に(時間当曲率漏斗?実体化?)たびたび登場する架空の本や歴史に翻弄されて、慣れるまで時間がかかります。

 

それに、この本には感情移入できる人間がひとりもいません。

大富豪から文無しになって火星に連れ去られたのち記憶を奪われ脳みそにアンテナを埋め込まれて黄色の全身タイツを着せられる男、数年間結婚していたにもかかわらず火星行きの宇宙船でレイプされるまで処女だった芸術家肌の潔癖な女、金属の切れ端を後生大事にしている火星で生まれの超絶無愛想きわまる子ども、神みたいになったイケスカナイ男とその共謀な愛犬。

そのほかにもいろいろいっぱいでてきますが、どいつもこいつも普通じゃない。

 

だから別に、感情移入というやつは、さほど大事じゃないのです。

彼らは、人間のバカさ加減をしめすため、身を挺してバカ騒ぎをしている。そしてわたしがこの本を読んで泣いたり笑ったりするとき、そのようなバカ騒ぎがバカバカしくて、せつなくて、笑えてくるのです。

 

”「もし、その手紙が、人生とは何かについてほんのわずかな光でもあてているようでしたら、ご面倒でもわたしの家に電話していただけないでしょうか」”

 

かれらがバカ騒ぎしながら探すもの、それは、「人生の意味」。この小説を最後まで読み切ったところで、このセリフの主に電話がかかってくることはありません。

でも、すこしでも読み始めたのなら、どうか最後まで読んで、次のことばにたどり着いてほしい。

 

”「わたしを利用してくれてありがとう」

 「たとえ、わたしが利用されたがらなかったとしても」 ”

 

最後の瞬間にこんなことばが浮かんでくるなら、

意味などなくても捨てたもんじゃないのだ、人生ってやつは。