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まめ書架

読書、映画、ときどき音楽。あるいは芝居。

【小説】吉本ばなな『白河夜船』

先の見えない恋が不安だった。

友達が死んだことが悲しかった。

それもある。
でもそれだけでもない。

何も見たくなかった。何も考えたくなかった。 この世の自分の存在証明のようなものを、失いかけていた。

ただただ眠かった。


吉本ばなな『白河夜船』

白河夜船 (新潮文庫)

白河夜船 (新潮文庫)

眠りすぎてしまった時期は、わたしにもある。
(もしかしたら、またあるかもしれない。それとも、今もまだ眠っているのかもしれない。)

無理に起きることはできる。でも、ずっと寝てもいられる。夢もみない。そのくせ、起きている間は夢の中にいるようで、見るもの触るものには現実の手応えがない。

寺子さんの場合、唯一、現実として聞こえていた恋人からの電話のベルも、聞こえなくなってしまった。やがて死者を夢にみた。

永遠のような時間。夜の果て。
わたしのしている、これってなんだろう。
いま、生きているだろうか、わたし。

夜の果てに近づきすぎて、あの子は死んだ。同じ轍を踏んではならないことを寺子さんは知っている。寺子さんは友達が死んで悲しいけれど、自分まで死のうとおもっていない。ただ、どのような方法で折り合いをつければよいのか解らない。だから眠る。それしかできなくて眠る。

眠る、というのは、いちばん死者に近づく方法なのだろう。

目覚めるために、寺子さんは「とにかく身体を動かす」という方法にでる。決まった時間におきる。ものを運ぶ。汗をかく。部屋がちらかる。くたくたになって眠る。また起きる。そのようにして、死者の世界、他者との境目に近づきすぎた自分を、いまの自分の世界につなぎとめるのだ。もう一度、電話のベルを聞くために。