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まめ書架

読書、映画、ときどき音楽。あるいは芝居。

【映画】ソフィア・コッポラ監督『ロスト・イン・トランスレーション』

♪はっきりさせなくてもいーい
あやふやなまーんまでいいー
僕達ーは なんとなーく
幸せに…

…しあわせ?


ソフィア・コッポラ監督『ロスト・イン・トランスレーション


ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

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あんまり冴えない中年のハリウッド俳優・ボブと、若手カメラマンの夫の仕事についてきた新妻・シャーロット。ふたりが出会ったのは、高層ビルが建ち並び、表情のよめない人々が街を埋め、ネオンが夜を照らす、不思議都市・トーキョーでした。

馴染みのない都市で、知り合いもおらず、謎の風習(名刺、坊主、生け花、白無垢…)に惑わされつづけるふたり。

それらには、なにか、意味があるらしい。
しかし、自分にはそれがわからない。

"Lost in translation"とは、「翻訳により意味が失われる」の意味だそうです。ことばが思ったように届かない。また、受け取れない。ふたりが受け取れないのは、トーキョーの意味だけではありません。ふたりは、夫や妻、子供、仕事相手、そして人生にも、惑っている。

家族もいる。健康だ。仕事もそこそこ忙しい。

しあわせだ。
わたしたちはしあわせのはずだ。
それなのに、どうしてこんなにさみしいのだ。

思考の土台となる共通の認識が失われた状態のことを、社会学の用語で「アノミー」と呼びます。それは、律するものがない、無秩序な状態です。知らない土地で夫や妻の目も逃れ、ふたりは自由の身のはずなのに、彼等はちっとも楽しそうではない。トーキョーを映すカメラは始終、ふらふら、ふわふわと揺れつづけます。

彼等は自由など欲していない。
ただ、ことばが通じる相手がほしい。

ラストシーン、かれらはふたり、観客には聞こえないことばを交わします。人混みの真ん中で抱きしめあうふたりを振り返るひとはいません。そして、不思議都市・トーキョーを後にして、元いた場所へと戻ります。

きっと、二度と出会うこともない。

そしてながれるスタッフロール、音楽は…

はっぴいえんど「風をあつめて」

この余韻…

たまらん。

ちなみに、冒頭の歌はTHE BLUE HEARTS「夕暮れ」。なんとなくしあわせでいいじゃない、と歌いながら、無名ながら特定一人の"あなた"をギュッと抱きしめたくなるせつない歌です。