まめ書架

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【映画】スタンリー・クレイマー監督『渚にて』

ソ連との戦争により投下された原子爆弾によって、北半球は全滅した。唯一生き延びたアメリカの潜水艦は、放射能汚染がまだ進んでいない南半球・オーストラリアに寄港する。しかし、全滅したずのアメリカ・サンディエゴからモールス信号を受信し、調査にむかう。

 

スタンリー・クレイマー監督『渚にて

 

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映画を見ている側にわかるのは、「ああ、この世界では、なにかが決定的に終わってしまったのだ」ということ。

戦争があったらしい(どうやら今も戦時中らしい)。

どうやらここよりほかに生きている人はいないらしい。

やがて不治の病気で苦しみながら死ぬらしい。 

なんとなく、『となり町戦争』や『最終兵器彼女』あたりの世界観と似ている気がします。よくわからないけど、世界規模の何かが起きている、でも今の自分にほとんど関係がない。けれど、人々の会話の端々から、日々の何気ない生活から、時折不安なゆらぎを感じる。その不安は確実に現実のものとなる。

映画の公開は1959年、劇中の西暦は1964年なので、わずか5年先の未来の風景を描いています。それで、こんな絶望的な映画になるのですから、当時の原爆・水爆界隈の事情はよっぽどひっ迫していたのでしょう。

よかったなあ...北半球、今もまだあって。

ちなみに、「水爆によって目覚めた怪獣が町を破壊しまくる」特撮映画の超名作『ゴジラ』の公開は1954年。おなじ「核戦争への恐怖」をテーマにして、かくも異なる映画になるんですね。

戦争シーンもなく、潜水艦の見せ場もなく、登場人物たちの気持ちが細やかに描かれる、実に抒情的な映画です。

ただ...気になったのは、登場人物たちの死にざまが、あまりに美しい、ということ。

南半球にも放射能汚染が迫り、いよいよ最期のときが近づき、放射能障害とおぼしき症状を訴えるものも出始めた(※この映画では、そうなったが最後、数日のうちに苦しみながら死を遂げることになる、という設定)彼らは愛する者とともに、愛する場所で、睡眠薬を服用する。

あまりに...あまりに「理想的な死」だとはおもいませんか?

だって、こんなに美しく死ねるはずがないじゃないか。

いや。

いやいや。

でもこれはそういう映画だもの!

世界最後の日なのだもの!

理想的でいいじゃない!

そうも思います。

でも、なんでだろうなあ。なんだかこの”美しい死にざまへの憧れ”っていうのも、アメリカン・ドリーム的だとおもいます。『ゴジラ』では、人々は基本的にわけのわからないまま死んでいきます。なんでゴジラに踏まれて死ななきゃいけないのか、だれもその理由を説明してくれない。運が悪かった、としか言いようがない。一方、『渚にて』は、死を自分の裁量で調整してしまっているところが、気になるのかもしれない。