まめ書架

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【小説】宮部みゆき『英雄の書』

 あーそうそう、そうなのだ、読み始めたら止まらない、このかんじ。部屋のはしっこに体育座りして、「ごはんやで」って呼ばれるまで何時間でも読んでいた、中学生のころを思い出していた。

 

宮部みゆき『英雄の書』

 

英雄の書〈上〉 (新潮文庫)

英雄の書〈上〉 (新潮文庫)

 
英雄の書〈下〉 (新潮文庫)

英雄の書〈下〉 (新潮文庫)

 

 

小学5年生の由里子が、同級生二人を殺傷し行方をくらませた兄を探すため、書籍にみちびかれて異世界を旅するファンタジー。できそこないの辞書が化身したネズミのアジュや、できそこないの僧侶ソラ、態度は悪いけどいいやつのワイルド男アッシュといった、魅力的なキャラクターがたくさん登場して、最後までひきつけられっぱなしでした。

でも僧侶のソラ、て。松尾芭蕉か。

だいぶ前に、宮部みゆき製ファンタジーの第一作『ブレイブストーリー』も読んだけれど、あまり内容を覚えていません。お小遣いはたいて単行本で買ったものの、読み返すこともないと思って売ってしまった。思い返せば、あのあたりから、現代日本の文学をあまり読まなくなった気がするなあ。『ドリームバスター』は今のところ全部そろっているし、『ICO』も好きだし、文庫本で買った『蒲生邸事件』や『霊感お初』シリーズもまだ手元にあるのだけど、『ブレイブストーリー』が少し苦手だったのはなんでだろう。今回の『英雄の書』でもそうでしたが、骨太な世界設定とキャラクターがとても魅力的なのに、説明がまどろっこしいのだよな。

 

それでも夢中で読んで、文庫本上下巻を1日半でいっきに駆け抜けたのは、たぶん、<物語>のとりあつかいがなじみ深いものだったからだろう。世の中には<物語>があふれている。そうでないものを探すほうが難しい。生の現実をつきつけられては生きていかれないから、人は<物語>にすがる。

わたしには○○でなければ生きていけないとおもうことは<物語>だし、わたしがいなけりゃ仕事が回らないとおもうことも<物語>だし、家族がいてみんな健康だからわたしはしあわせとおもうのも<物語>だし、そもそもしあわせを欲するのが<物語>だ。

 

そういう<物語>なしに、ひとは生きていけない。ぜったいに。

 

いまは、「英雄」の<物語>に取りつかれているひとが、ずいぶん増えた。べつに、悪いことばかりではない。ただそれが<物語>であることを知っているか否かは、英雄の行く末を大きく左右する。英雄にならなくたって生きてける。ほかにも<物語>はたくさんある。これ以上英雄はいらない。英雄にかわる、もうすこしマシな<物語>を探さなくちゃいけない。